マンガンスカルンについて

 更新が半年ほどできず申し訳ありませんでした.なんとなく書けるネタも無かったのと単純に忘れていました.

 

 今回はマンガンのスカルンについて記事を書こうと思います.といっても自分はまだまだ初心者なので当ブログの内容は鉱物好きの鉱床学初心者が書いた妄想程度に思ってください.

 

 そもそもスカルンというのは昔スウェーデンの鉱夫が使用していた用語で,鉄鉱石を採掘していた鉱山で見られる白いケイ酸塩鉱物からなる脈石(鉱石にならない不毛な岩石)を意味していました.また多くの鉱物マニアには”スカルンは石灰岩花崗岩などが接触,交代し,柘榴石などのスカルン鉱物が形成される”という認識があると思います.実際私も一年ほど前名ではそのような認識でした.しかし現在用いられるスカルンという用語はそのセッティング(地質的な環境)ではなく鉱物組み合わせに対して用いられています(LD Meinert et.al, 1992).また,スカルンを構成する鉱物(指標鉱物)として,柘榴石,輝石,橄欖石,準輝石,角閃石,緑簾石,斜長石,柱石,斧石,ベスブ石,葡萄石などが主なものとされています.つまりこれらの鉱物からなる岩石があれば,どんなセッティングであろうと鉱床学上は”スカルン”となってしまうのです.実際上記のレビュー論文によるとスカルンは石灰岩,苦灰岩,頁岩,砂岩,花崗岩玄武岩などほとんどあらゆる岩石中に存在しうるとあります.しかし,多くのスカルンが石灰岩中あるいはそれを交代したセッティング(環境)に見られるのも事実です.

 

 さて,この中で日本の鉱山跡で主に見られるスカルン鉱物は柘榴石(灰鉄柘榴石,満礬柘榴石,灰礬柘榴石鉄礬柘榴石),輝石(灰鉄輝石,透輝石,ヨハンセン輝石),橄欖石,準輝石(バラ輝石,珪灰石),角閃石類,緑簾石,斧石,ベスブ石あたりでしょうか.秩父鉱山神岡鉱山などの日本の著名な鉱山に見られる岩石は上記の鉱物を主成分としており,確かにスカルンであることがわかります.

 

 ここまでの内容は論文などにも書かれており,いわゆる通説です.しかしこの先の内容は自分で勝手に思いついただけの内容なので話半分に聞いていただければ幸いです.

 

 もし上記のようにスカルンを分類するのであれば,昔日本で採掘を行ったマンガン鉱床の一部はスカルンとして分類されるのではないか?という疑問が沸き上がってきました.思えば日本の多くのマンガン鉱山跡でバラ輝石,満礬柘榴石やバスタム石(珪灰石のCaをMnで置換した鉱物),テフロ石(橄欖石グループの鉱物),角閃石類などがみられ,これらは上記のようにスカルンの指標鉱物なのです.では仮にこれらの鉱床をマンガンスカルンとして考える場合どのような成因が考えられるでしょうか?一般的に"層状マンガン鉱床"は海底に堆積したマンガン鉱物が多少の変成を受けて形成されたと考えられています.私の持論ではこのプロセスにおいて一定の条件下で変成が進むとマンガン鉱物がスカルン鉱物として固定されるのではないか?と考えています.

 

 仮にその条件を求めることができれば特定のマンガン鉱物を採集したいと考えた際にどの鉱山に行けば良いのかのある程度の目星が付くのではないか...などと夢物語を考えています.

 

P.S. このままではあまりにも味気ないのでそのうちマンガン鉱物の写真でも追加しようと思います.

 

参考文献

Meinert, Lawrence. (1992). Skarns and Skarn Deposits. Geosci. Canada. 19. 10.12789/gs.v19i4.3773.

HSAB則と鉱床学

 無機化学においてHSAB則というのがあります。これはイオンを”硬いイオン”、”中間的なイオン”、そして”やわらかいイオン”に分けたもので、Pearsonによって提唱されました。硬いイオンは電荷密度が高いイオンで、電気陰性度が小さい金属の多くは硬いイオンに分類されます。また、やわらかいイオンは電荷密度の低いイオンで、これに分類される金属イオンは金属元素のなかで相対的に電気陰性度が大きいものです。

 

 そして硬い陽イオンと硬い陰イオン、中間的な陽イオンと中間的な陰イオン、やわらかい陽イオンとやわらかい陰イオンは反応性、親和性が高いという理論がHSAB則です。

 

 HSAB則によって鉱床形成に関係する主なイオンを分類すると次のようになります。

 

硬いイオン:

Li^+, Na^+, Cs^+, Be^{2+}, Sr^{2+}, Fe^{3+}, Ce^{4+}, Sn^{4+},

Mo^{4+}, W^{4+}, V^{4+}, Mn^{4+}, As^{5+}, Sb^{5+}, U^{6+}

NH_3, OH^−, F^−, {NO_3}^−, {HCO_3}^−, CH_3COO^−,

{CO_3}^{2−}, {SO_4}^{2−}, {PO_4}^{3−}

 

中間的なイオン:Fe^{2+}, Co^{2;}, Ni^{2+}, Cu^{2+}, Zn{2+}, Pb{2+}, Sn{2+},

Sb{3+}, Bi{3+}, Cl^-

 

やわらかいイオン:Au^+, Ag^+, Cu^+, Hg^{2+}, Cd^{2+}, Sn^{2+}, Pt^{2+}, Pd^{2+} Au^{3+}, HS^−

 

 これを見て鋭い方は気づいたかもしれませんが中間的なイオン、やわらかいイオン同士は同じ鉱床中に産出することが多いです。これは中間的なイオンは中間的なイオンであるCl^-が、やわらかいイオンはやわらかいイオンであるHS^-が鉱床の形成に大きくかかわっているからではないかといわれています。

 

 このように金属イオンなどの挙動も鉱床学では重要になってきます。ただし、全てのタイプの鉱床でこれが応用できるというわけではなく、例えば金鉱床ではHS^-イオンが鉱床形成にかかわってくることも多いとされています。あくまでもHSAB則の傾向が見られるという程度に考えておくと鉱物採集をするときもまた違った視点から観察が出来て面白いかもしれません。

 

今日の一枚

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福岡県福岡市長垂のリチウムペグマタイトから産出したポルックス

({(Cs,Na)}_2Al_2Si_4O_{12}・2H_2O)。リチア雲母(KLi_2AlSi_4O_{10}(F,OH)_2)を伴う。

 

 

 

 

 

金鉱床編(浅熱水性金銀鉱床、中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの))

 

 最初の記事は鉱物採集をされる方に人気?の元素、金です。金は日本で産出す場合鉱床学的には浅熱水性金銀鉱床、中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)、造山型金鉱床、堆積鉱床に産出することが多いです。その中でも今回は浅熱水性金鉱床、中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)にフォーカスしようと思います。

 

 浅熱水性金銀鉱床はその名の通り浅い場所で比較的低い温度(100-250℃)で生成される鉱床で、金と銀の比を比べたとき銀が多い傾向があります。また、日本では浅熱水性金鉱床が採掘されるうえでは規模が大きいことが多く、現在まで通算の産金量が最も多い菱刈、佐渡、鴻之舞、串木野、鯛生の上位5つはすべて浅熱水性金鉱床です。

 

 また、このうち3つの鉱山は九州にあり、これには九州での活発な火山活動が関係しています。しかし、鉱物を採集をする上では浅熱水性金鉱床は中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)と比べてあまり重要視されません。これには理由がいくつかありますが、浅熱水性金鉱床では産出する自然金の粒が小さいこと、そして金に対して銀の含有量が多いことで自然金が白っぽくなってしまうということがあります。

 

 しかし、浅熱水性金鉱床にも例外的に肉眼で見える自然金が産出することがあり、日本でも静岡県群馬県などにいくつかの産地が知られています。

 

 中熱水性金鉱床は比較的深い場所かつ比較的高い温度でできる鉱床です。しかしこの中熱水性金鉱床という概念は浅熱水性金銀鉱床より深くできた鉱脈鉱床以上の意味はないため厳密な議論では死語になっています。要するに中熱水性金鉱床と言っても様々なタイプがありいわゆる造山型金鉱床、貫入岩関連金鉱床などがこれに含まれます。

 

 それではいよいよ本題に入ろうと思います。今回述べるポイントは3つです。一つが”どのような場所(地質)に浅熱水性金銀鉱床、中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)ができるのか”。二つ目が”どのようにして浅熱水性金銀鉱床、中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)ができるのか”。三つめが”自然金を見つけるには”です。

 

どのような場所(地質)に浅熱水性金銀鉱床、中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)ができるのか

 

 一般的に日本では浅熱水性金銀鉱床は新生代第三期以降の火山活動に伴われることが多いです。この傾向がみられる要因は単純に侵食の度合いではないかと思います。つまり新生代第三紀以降の火成岩及びそれに胚胎する鉱床はあまり侵食を受けないために比較的浅い場所にできる浅熱水性金銀鉱床が多く見られ、また同時に新生代第三紀以前の火成岩及びそれに胚胎する鉱床は侵食を受け比較的深い場所にできる中熱水性金鉱床が見られると推測できます。また、新生代第四紀の火山活動に伴われるような金鉱床は地下深く(数~数十km)に埋もれており、発見されにくいため鉱山として稼働した鉱床が少ないと考えられます。(菱刈鉱山の金銀鉱床は新生代第四紀の火山活動に伴わてできたものですが地表に鉱体は露出していません)

 

 ではどのような火成岩に浅熱水性金銀鉱床が胚胎しやすいのでしょうか?一般的に日本でみられる浅熱水性金銀鉱床は珪長質岩やその周辺の岩石に胚胎します。浅いところでできる珪長質岩は流紋岩安山岩です。なぜ玄武岩などの苦鉄質岩には伴われないのでしょうか?実は海外では苦鉄質岩に金鉱床が伴われることは珍しくなく、むしろ苦鉄質岩中の石英脈に含まれることが多いです。しかしこのような鉱床は地下深くで生成されたもので日本の浅熱水性金銀鉱床と同列に比較することはできません。しかし一般的に海外では珪長質岩より苦鉄質岩に金鉱床が胚胎し日本では苦鉄質岩より珪長質岩に金鉱床が胚胎しやすいことが知られており、地域によって金の濃集原理が異なっていることが示唆されています。

 

 金鉱床(特に浅熱水性金銀鉱床)では胚胎母岩と鉱脈の関係は薄く、堆積岩中や変成岩中に胚胎する鉱床は胚胎母岩によって鉱床の生成深度を推定することはできません。

 

 また、中熱水性金鉱床は一般的に深いところにできる金鉱床全般を表しますがここでは花崗岩などの貫入岩によってできる金鉱床(貫入岩関連金鉱床)についてのみ書きます。花崗岩や花崗閃緑岩を鉱床学的に分類する際には磁鉄鉱花崗岩、チタン鉄鉱系花崗岩と分けたり、I型花崗岩、S型花崗岩と分けたりすることが一般的です。I型花崗岩はいわゆるI-type graniteで火成岩などを起源とすると考えられている花崗岩で、S型花崗岩がS-type graniteで堆積岩などを起源とすると考えられている花崗岩です。I,S以外にもさまざまな種類の花崗岩がありますが日本の花崗岩はほとんどがI,Sタイプなのでここでは割愛します。

 

 磁鉄鉱花崗岩はその名の通り磁鉄鉱を多く含む花崗岩で、チタン鉄鉱系花崗岩と比べると一般的には酸化されています。一方チタン鉄鉱系花崗岩はあまり酸化されていません。磁鉄鉱花崗岩は金やリチウム、チタン鉄鉱系花崗岩は錫やタングステンの鉱化作用を伴いやすいことが知られています。ただし、これはあくまで結果論であってなぜそのような傾向がみられるのかはきちんと説明されていません。

 

 しかしこの分類方法は錫やタングステンについて考える際は日本でもある程度適用できますが金について考える際にはあまり参考になりません。これには日本が大陸などの比べると極めて特殊な環境であることが関係していると考えられます。

 

 S型花崗岩は堆積岩を起源とすると考えられており、I型花崗岩と比べると還元的であまり酸化していません。そのためマグマ中に含まれている鉄が鉱物として沈殿する際にI型花崗岩と比べると少ない酸素と結びつこうとするので磁鉄鉱の存在量が減り、チタン鉄鉱などの鉱物が増えます。S型花崗岩はほとんどがチタン鉄鉱系花崗岩と言われています。

 

 I型花崗岩は火成岩を起源とすると考えられており、そのため酸化されている花崗岩です。酸化されているということはマグマ中に含まれている鉄が鉱物として沈殿する際に多くの酸素と結びつこうとするので必然的に磁鉄鉱が多くなります。I型花崗岩はS型花崗岩と比べると磁鉄鉱が多いため磁鉄鉱花崗岩とチタン鉄鉱系花崗岩のどちらも含みますが日本におけるI型花崗岩はそのほとんどが磁鉄鉱花崗岩であるといわれています。

 

どのようにして浅熱水性金銀鉱床、中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)ができるのか

 

 最近では研究が進み、主に浅熱水性金銀鉱床の熱水起源は雨水などが地下深くに潜り込んでできた天水とマグマからもたらされた熱水が混合したものであることが分かっています。これは石英中の流体包有物中の酸素同位体比を調べる技術が確立されたことによって明らかになりました。酸素には三つの同位体が存在しますが熱水の起源を調べるときには^{18}O^{16}Oの比率を調べます。一般的に^{18}Oが多いと熱水はマグマ起源、^{16}Oが多いと熱水は天水起源といわれています。

 

 従来から言われてきた"中熱水性金鉱床"は現在造山型金鉱床や貫入岩関連鉱床として再分類することがあります。今回は造山型金鉱床については触れませんが、造山型金鉱床はその名の通り造山運動に伴ってできる鉱床で、まだ詳しく内容を書けるほど造山型金鉱床について勉強はしていないので後日しっかりと勉強して別の記事としてまとめます。(三波川変成岩中に含まれる金鉱脈は造山型金鉱床とみなされることが多いですが資料が少なすぎて鉱床タイプを分類することができません。(胚胎母岩のみで鉱床タイプを断言することは不可能))

 

 浅熱水性金銀鉱床,中熱水性金鉱床(貫入岩関連金鉱床)では雨水などが地下深くに潜り込むと天水となり、これが地下を循環する際にマグマや堆積岩などから様々な金属イオンなどが溶け込み、マグマ起源の熱水と混ざります。この金属イオン(今回は特に金)を溶け込んだ熱水が化学的性質、あるいは物理的性質の変化が起こった際に沈殿します。具体的には熱水のphの変化、熱水にかかる圧力の変化、温度の変化、熱水の混合、熱水の沸騰、酸化還元反応などです。

 

 金は酸性の溶液中ではAu(HS)塩基性から弱酸性の熱水中では Au(HS)_2^-として存在しているといわれています。一方酸化され、塩分を含み、酸性な状況ではAu(Cl)_2^-Au(Cl)_4^-として存在していると考えられています。前者は高温で、後者は低温で起こりやすいと考えられています。また金はシアン化金として低い温度で存在しやすいことは知られていますが、高温では不安定となってしまうので熱水鉱脈を考える際はあまり重要ではありません。

 

 ここで重要になってくるのが熱水中の金が沈殿する際の化学式で、錯体として熱水中に存在している金が沈殿するときには一般的に

 

AuCl_2^- +2H_2 O→4Au+8Cl^- +4H^+ +O_2

 

4Au{(HS)_2}^- +4H^+ +2H_2 O→4Au +8H_2 S(aq)+O_2

  

 という反応がおこります。上記の二式より金の沈殿には温度やfO_2(Oxygen fugacity*)の低下、塩化物錯体ではpHの上昇によって金の沈殿が促進され、チオ錯体では熱水が塩基性から中性まではpHの上昇により金はより溶解します。また、もちろん温度の低下によっても金は沈殿します。

 

*Oxygen fugacityの値が大きいと酸化的、小さいと還元的

 

 

 

 鉱物採集をされる方ならご存知の方も多いと思いますが自然金は黄鉄鉱や石英脈と母岩の間、銀黒、緑泥石に伴って産出することが多いです。特に浅熱水性金銀鉱床では黄鉄鉱、銀黒、緑泥石、中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)では黄鉄鉱、石英脈と母岩の間、緑泥石に産出することが多いです。これらの鉱物と自然金の関係性は熱水のpH変化や金の錯体の酸化還元反応の手掛かりになります。

 

熱水のpH変化

 

 銀黒ではどうでしょうか?母岩に近いところにできている銀黒は母岩に含まれる石墨などによって熱水が還元されることによって熱水のpHが変化して銀鉱物や自然金などが沈殿してできたと考えられます。また、母岩と離れ石英脈中に帯状にみられる銀黒は熱水にかかる圧力や熱水の温度変化、熱水の沸騰などによるものと考えることができます。

 

 緑泥石に伴う金は次の反応式が参考になるかもしれません。緑泥石は斜長石と様々な金属イオンが反応してできます。すなわち

 

2NaAlSi_3O_8+4(Mg,Fe)^{2+}+2(Fe,Al)^{3+}+10H_2O

→(Mg,Fe)_4(Fe,Al)_2Si_2O_{10}(OH)_8+4SiO_2+2Na^++12H^+

 

の反応によって緑泥石と石英ができます。この時この反応式に注目すると水素イオンが生成されていることがわかります。つまり、熱水のpHは水素イオン濃度に左右されますから熱水のpHが変化して緑泥石とともに自然金ができることが考えられます。

 

 石英脈と母岩の間でみられる自然金は母岩に含まれる石墨などによって熱水が還元されpHが変化した際に沈殿したと考えられます(あるいは酸化還元反応とみなすこともできるかもしれません)。また、中熱水性の石英脈中にはよく黒い細い脈がみられ、これに自然金が伴うことがよくありますが、自然金の成因は上記と同様なものと考えられます。

 

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たとえばこの標本は茨城県の中熱水性の石英脈から産出した自然金です。

 

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自然金に注目すると石英脈の母岩である粘板岩と密接に存在していることがわかります。この標本では母岩の粘板岩によって熱水が還元されて自然金が沈殿したと考えられます。

 

熱水にかかる圧力の変化

 

 熱水が断層などの母岩に侵入すると、熱水は突然広い空間に放り出されるため熱水にかかる圧力は急激に低下します。すると急な圧力の低下によってさまざまな鉱物か沈殿します。これにより鉱石鉱物の沈殿が起こると考えられています。

 

温度の低下による沈殿

 

 従来熱水鉱脈中の鉱物の沈殿は温度変化によるものと考えられていました。しかし、実際には地中(特に深いところ)では深度の変化による温度変化はそれほど大きいものではなく、鉱物の沈殿は主に熱水の化学的性質の変化や熱水にかかる圧力の変化によるものと考えられています。ただし、地表付近や海底では急激な温度変化による鉱物の沈殿は起こっていると考えられています。

 

熱水などの混合

 

 様々な金属が溶けている熱水が岩石などの割れ目を上昇するときに、他の熱水と交わることがあります。このように熱水が混合すると、別々の熱水の温度やpHの違いなどによって熱水の温度やpHが急激に変化することがあります。このような熱水の性質が急激に変化すると鉱石鉱物が急に沈殿し、富鉱部ができることがよくあります。

 

 実際、例として栃木県の西沢鉱山では一般的な鉱石がAuを25g/t、Agを550g/t程度含んだのに対し二つの鉱脈の交差部ではAuが1000g/t、Agが数%に達しと言われています。

 

 あるいは熱水が天水などと混合すると塩濃度やpHが変化するため天水の流入も沈殿の要因と考えることができます。

 

熱水の沸騰

 

 浅熱水性金銀鉱床では流体包有物の観察結果から熱水の沸騰が起こることがあることがわかっています。熱水が沸騰すると溶液中のH2Sなどのガスが気相に濃集しやすいことが知られており、このような沸騰現象が起こると沸騰のためのエネルギーを熱水が使うため熱水の温度が低下したり、H2Sガスの移動による熱水のpH変化が起こると考えられていて、これらが金などの鉱物の沈殿の要因になっているとも考えられています。

 

酸化還元反応

 

 黄鉄鉱とともに自然金が産出するのはなぜなのでしょうか?これは鉄と金を含む熱水から黄鉄鉱が沈殿する際に鉄が硫黄と結合することが関係すると考えられます。つまり熱水中の金Au(HS)n^-の硫黄を鉄が奪うことにより黄鉄鉱(FeS_2)が沈殿し、同時に金も沈殿すると考えられます。これは酸化還元反応による沈殿といえるでしょう。

 

 また母岩に菱鉄鉱が存在する際は次のような反応が起こることも指摘されています。

 

FeCO_3+Au(HS)^-→FeS+CO_2+H_2O+Au

 

 母岩に菱鉄鉱が存在するときは上記のような反応が起きて母岩中に含まれる菱鉄鉱を黄鉄鉱と自然金が置換していると考えられています。

 

 以上のように金が沈殿する要因は大きなものは"pH変化"、”温度変化”、”熱水にかかる圧力の変化”などで、これらの要因となるのが"熱水の混合"、"熱水の沸騰"、などです。

 

自然金を見つけるには

 

 自然金を実際に鉱山のズリや貯鉱場で探すときは先に書いたことを参考にして探すとい効率が良いです。特に重要になってくるのはどのような鉱物と共生しているかで、ズリなどから効率よく自然金を探すにはこれを知っていると得をします。例えば浅熱水性金銀鉱床からでたズリを探す場合には黄鉄鉱や銀黒、緑泥石の周辺を探すのがよいです。中熱水性金鉱床(花崗岩類に伴われるもの)からでたズリで自然金を探すときは石英脈と母岩の境界、黄鉄鉱、緑泥石の周辺を探すのが効率的です。ただの白い石英に自然金が含まれていることは極めてまれで、大体は上記のような熱水の化学的性質が変化する部分にみられます。

 

 また、露頭などから金を含んだ石英脈を探す場合は石英脈を観察してそれが金を含んでいそうかを注意深く観察するとよいと思います。例えば石英脈が鉄分を含んでいるのかなどは大きな指標になります。なぜならば先にも書いたように金は鉄が沈殿するようなときに一緒に沈殿しやすいからです。

 

 しかし鉱床というのはさまざまな要因が複合的に重なってできたものなので全く同じ鉱床は一つもありません。そのため”例外”は常に起こります。ときには思いもしないような場所からよい標本が採れることもあります。先に述べたようなことを前提知識としていただいて様々な鉱山を比較する際にその差異を楽しんでください。

 

 この記事では偉そうなことを書きましたが自分はまだまだ初心者なのでこれからもっと勉強していきたいと思います。

 

 また気が向いたら造山型金鉱床やスカルンなどの記事も書いていきます。間違っている点などありましたらコメントで指摘していただけるとありがたいです。

 

P.S この記事を査読していただき様々なアドバイスをしていただいたり改善点を指摘していただいた某現役探鉱技師様には大変深く感謝いたします。ありがとうございました。

 

 

このブログについて

 このブログは某国立大学で学んでいる大学生が鉱床学を学びながら、知識のアウトプットをするブログです。特に鉱物採集をする人に参考になるような記事を書けるように頑張りたいと思います。初学者なので間違いなどがありましたら是非ご指摘ください。4月から2年生になる予定です。